「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」
これは、菅義偉首相が2020年10月に行った演説です。
カーボンニュートラルや脱炭素社会という言葉はそれまであまり耳馴染みのない言葉だったと思いますが、最近はニュースでもよく聞かれるようになりました。
とはいえ、
- 脱炭素社会(カーボンニュートラル)の意味
- どうして脱炭素社会(カーボンニュートラル)を進めるのか
といったことについてはまだまだ浸透していないように感じます。
そこで今回は、脱炭素社会(カーボンニュートラル)の意味について、小学生でもわかるくらい簡単に説明をした上で、その取り組む理由について解説していきたいと思います。
脱炭素社会(カーボンニュートラル)の意味・定義
冒頭に引用した菅首相の演説文ですが、気になる部分があります。
それは、温室効果ガスの排出を「全体として」ゼロにする、という表現の仕方です。
ゼロにするときに「全体として」とは普通、言わないと思います。
財布落としてお金が全体としてゼロになっちゃってさぁ
緊急事態宣言のせいで売上が全体としてゼロなんだよね
こうした表現は、違和感がありますよね。
ですが、脱炭素社会(カーボンニュートラル)に関しては、この「全体として」という表現がとても大事です。
というのも脱炭素社会(カーボンニュートラル)は、温室効果ガスの排出をゼロにすることではないからです。
意味不明に思えますが、そのカラクリは、温室効果ガスの排出をマイナスにする方法があるからです。
つまり、温室効果ガスを排出したとしても、それ以上のマイナスを出せれば、「全体として」ゼロにできるというわけです。
排出のマイナスというのは、吸収や除去があります。
具体的には、植林などにより植物を増やすことで光合成※を促し二酸化炭素を吸収することや、そもそも二酸化炭素を大気に放出せずに埋めてしまう方法などがあります。
【光合成】
https://kids.gakken.co.jp/jiten/dictionary02500140/ より引用
緑色植物が光(太陽光)のエネルギーを用いて,二酸化炭素(CO2)と水(H2O)からデンプンなどの炭水化物(グルコースC6H12O6)を合成し,酸素(O2)を放出すること。
達成時期が2050年の理由
カーボンニュートラルの目標が2050年となっているのは、気候変動問題に関する国際的な枠組みである「パリ協定」の影響が大きいと考えられます。
パリ協定では、「今世紀後半のカーボンニュートラルを実現」することが目標とされています。
脱炭素社会(カーボンニュートラル)に取り組む理由
世界中が脱炭素社会(カーボンニュートラル)に躍起になるのには、表と裏の理由があります。
まず表向きには、環境問題を無視することができないことが挙げられます。
環境省によると、日本で今のまま温暖化が進んだ場合、2031~2050年は、熱中症搬送者数や熱ストレスによる超過死亡者数が1900年代後半に比べて2倍以上になると試算されています。
また、海水温の上昇の影響で日本近海の熱帯・亜熱帯サンゴ礁が消滅するとも言われています。
ほかにも豪雨災害のリスクも高くなるなど、とても深刻な状況です。
こうした問題がある以上、手を打たないわけにはいかないというのが表向きの理由です。
裏の理由は、カーボンニュートラルのために多額のお金が動くことです。
世界的に取り組みが広がるということは、脱炭素社会(カーボンニュートラル)の研究などを進める企業や団体に、たくさんの投資が集まります。
ここ数年、ESG投資という言葉が話題になっています。
ESG投資は、上記3つの要素を重視して投資をしようというものです。
社会や環境問題に真剣に取り組む企業を支援するのがESG投資というわけです!
企業はこうしたお金の動きに敏感なので、脱炭素社会(カーボンニュートラル)に役立つ技術の開発にお金を使うようになります。
政府がカーボンニュートラルを目指す発表をしたので、日本の企業も追従することは容易に想像できます。
炭素税の導入や、エコ商品に対する減税・補助金など、企業の意思決定に関する動きが続々と出てくることが予想され、カーボンニュートラルを進める流れはしばらく収まることはなさそうです。
お金が絡むので「裏の面」と表現しましたが、これはなにも悪いことではありません。
イノベーションを起こすにはチャレンジが必要で、企業にとってのチャレンジとは投資(お金)だからです。
実際、菅首相は演説でこうも述べています。
「もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではありません。積極的に温暖化対策をおこなうことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要です」
はっきりとお金とは言っていませんが、「経済社会の変革」というのは、エコの分野にお金が流れていくことと解釈することができます。
カーボンニュートラルは、地球温暖化が招いたピンチに対する打開策でありながら、新たな経済社会を見つける足掛かりとしても期待されているということですね!
脱炭素社会は実現不可能?
脱炭素社会(カーボンニュートラル)が大切なのはわかったけど、さすがに達成は無理でしょ
脱炭素社会(カーボンニュートラル)の達成が不可能だと考えてしまうのも無理はありません。
実際、日本財団が2021年2月に全国の17~19歳に実施した調査によると、「2050年カーボンニュートラルを可能だと思うか」という質問に対し、「いいえ」が35.4%で「はい」の14.4%を大きく上回っています。
たしかに今から30年後に、温室効果ガスの排出が実質ゼロになる世の中を想像するのは難しいと私も思います。
しかし、だからといって2050年カーボンニュートラルは意味のない、無駄な目標とまでいえるでしょうか。
パナソニックの前身である松下電気器具製作所を創業した松下幸之助氏は、高い目標を掲げることについてこう述べています。
5%や10%の改善は、時には50%の抜本的改革よりもっと難しい。
https://meigennavi.net/word/00/001116.htm より引用
それは50%の改革が現状否定からスタートするのに対し、5%や10%の改善は現状肯定からスタートするからである。
私はこの言葉がとても好きです。
たとえば、2日かかる仕事を1日でやれと言われたら、徹夜して終わらせようと考えるかもしれませんが、もしその仕事を1時間でやれと言われたら、今までと全く違う方法を考えると思います。
もちろんこの方法は、うまくいかないことのほうが多いとは思いますが、抜本的に問題を考え直すには有効です。
地球温暖化という差し迫った危機に対応するためには、無謀と思える挑戦をしないといけません。
そう考えれば、2050年カーボンニュートラルは、「今は」無理に見えるかもしれませんが、掲げなければいけないものだと思えるはずです。
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