私が住んでいる長崎県で唯一の国立大学である長崎大学で、「プラネタリーヘルス」という言葉が使われていました。
あまり耳馴染みのない言葉ですが、字面どおりに訳せば「地球の健康」という意味で、SDGsと関連しそうだと感じたので少し調べてみました。
結論から言えば、プラネタリーヘルスはSDGsの考え方と整合性のある学問分野だと感じました。
今回の記事では
- プラネタリーヘルスとはなんなのか
- グローバルヘルスなどの類語との違い
- SDGsとの関連性
などについて解説していきたいと思います。
プラネタリーヘルスとは
プラネタリーヘルス(Planetary Health)とは、2015年にロックフェラー財団およびランセット(有名な医学ジャーナル)が共同で発表した概念のようです。
翌2016年にロックフェラー財団の支援を受けて発足したPlanetary Health Alliance (PHA)のHPには、プラネタリーヘルスについて簡単にこう記載しています。
Planetary health is a field focused on characterizing the human health impacts of human-caused disruptions of Earth’s natural systems.
Planetary Health Alliance 公式HPより
日本語に訳すと、こんな感じでしょうか。(私の訳文であり、正確性を保証することはできません)
プラネタリーヘルスとは、ヒトが引き起こしている地球環境システムの破壊がヒトの健康に及ぼす影響を明らかにすることに焦点を当てた学問分野である。
もうひとつ、日本語の定義(※)を紹介します。
※2021年5月現在で、私が見つけることのできた唯一の情報であるため引用していますが、この定義が各種学会・団体などの通用性があるかどうかはわかりません。
プラネタリーヘルスは、人類の繁栄を限界づける地球環境に対して多大な影響を及ぼしている人間の政治経済、社会システムに対して真摯に向き合い、文明化された人の健康と地球環境の密接な状態の関係に注目することを通して、健康、福祉の増進と公平な社会を目指すこととされている。
一般社団法人 日本国際保健医療学会 国際保健用語集より
以上2つの定義から勘案すると、以下の事項が言えると私は考えました。
- プラネタリーヘルスの最終目標は、「ヒト」の健康や福祉、社会の向上である
- そのためには「地球環境システム」が抱える問題を解決する必要がある
- 「ヒト」が「地球環境システム」を破壊している
こう考えると、プラネタリーヘルスは地球環境システムへの懸念が強く示された言葉のように感じます。
地球環境システムを強調する理由は、地球環境問題がヒトの健康問題を考えるうえで無視することができなくなったからと推測できます。
さらに言い換えるのであれば、現在の健康問題だけでなく将来に向けても意識が向いているとも言えそうです。
グローバルヘルスなど類語との対比
プラネタリーヘルス以外にも、〇〇ヘルスという言葉はたくさんあります。
私が知っている限りでも以下のとおり。
- パブリックヘルス(Public Health)
- グローバルヘルス(Global Health)
- ワンヘルス(One Health)
- エコヘルス(EcoHealth)
ここではそれぞれの言葉との違いについて調べてみたことを書いていきます。
パブリックヘルスとの違い
パブリックヘルスは、日本語で「公衆衛生」と訳されます。
その定義も色々あるのですが、典型的なのは下記のような説明です。
集団の健康の分析に基づく地域全体の健康への脅威を扱う
フリー百科事典ウィキペディア(Wikipedia)より
人間社会の健康に関わる諸問題に集団的に対応すること
(認定)特定非営利活動法人 シェア=国際保健協力市民の会HPより
また、パブリックヘルス(公衆衛生)という言葉はしばしば「臨床・治療」の対比として用いられているようです。
つまり、医者の行う治療が個人の病気を治すことであるのに対し、パブリックヘルス(公衆衛生)は集団の健康問題を治す(解決する)ということです。
私なりにプラネタリーヘルスとの大きな違いを示すのであれば、以下の2点だと考えています。
- プラネタリーヘルスが将来の健康問題も見据えているのに対し、パブリックヘルスは現在の健康問題を重視している
- プラネタリーヘルスが地球環境システムに積極的に言及しているのに対し、パブリックヘルスは明言をしていない
グローバルヘルスとの違い
グローバルヘルスは以下のような定義が一般的のようです。
グローバルレベルでの人々の健康課題、あるいはそれについて研究する公衆衛生、疫学、医学、看護学、人類学、開発経済学、政治学、社会学などの複合的な学問領域
フリー百科事典ウィキペディア(Wikipedia)より
ポイントは2点あって、1つはグローバルレベルであること、そしてもう1つは公衆衛生以外の学問も取り入れようとしているところです。
プラネタリーヘルスとの違いは何かと言えば、やはり「地球環境システム」への取り組みの有無のような気がします。
また、グローバルヘルスでは健康問題に対応できなくなってきているため、プラネタリーヘルスという概念が発展してきているのではないかと推測できます。
実際、ウィキペディアにはこのように記載があります。
global health was no longer able to truly meet the demands which societies face, as it was still too narrow to explain and illuminate some pressing challenges.
フリー百科事典ウィキペディア(Wikipedia)より
グローバルヘルスは、(ヒトの健康問題に関する)差し迫った困難を説明し明らかにするには(扱う範囲が)狭すぎるため、社会が直面する要求にもはや適切に応えることができなくなりました。
※()は原文にはないですが、意味をわかりやすくするため補いました。
ワンヘルスとの違い
ワンヘルスは以下のように定義されるようです。
人、動物、環境の衛生に関する分野横断的な課題に対し、関係者が連携してその解決に向けて取り組む
厚生労働省HP 人と動物の一つの衛生を目指すシンポジウム-人獣共通感染症と薬剤耐性菌-より
大きな特徴は、動物というキーワードが含まれることです。
ワンヘルスが重視する「動物」分野はプラネタリーヘルスではそこまで重視されていないので、大きな違いと言えると思います。
また、ワンヘルスは、その研究分野の大きな柱として人獣共通感染症があるのも特徴です。
エコヘルスとの違い
エコヘルスもプラネタリーヘルスと非常に似た概念です。定義は以下のようです。
「エコヘルス」は、従来は医療や疾病研究の視点で捉えられてきた「健康」を、社会変容と環境変化が急速に進む近現代における、暮らしや生態環境、生業、食生活等との関わりから探求しようとする新たな研究の視座です。
広領域連携型基幹研究プロジェクト アジアにおける「エコヘルス」研究の新展開HPより
生態環境などが含まれており、地球環境システムへの言及がされているのが大きな特徴です。
あくまで私見ですが、プラネタリーヘルスとエコヘルスの違いは、将来世代を見据えているかどうか、という点だと思います。
SDGsの観点から見たプラネタリーヘルス
今回、プラネタリーヘルスという新しい概念について書いてきましたが、この言葉を取り上げようと思ったきっかけは、SDGsと非常に近い考え方だと感じたからです。
散々書いてきましたが、プラネタリーヘルスは地球環境システムも考慮した、将来世代を見据えた学問だと思っています。
プラネタリーヘルスの考え方はSDGs(持続可能な開発目標)の「持続可能な開発」にぴったり当てはまるものです。
「持続可能な開発」は、将来の世代がそのニーズを満たせる能力を損なうことなしに、現在のニーズを満たす開発と定義されています。
国際連合広報センターHPより
つまり、プラネタリーヘルスを推進することがSDGsの達成に近づくと考えることが可能です。
余談ですが、冒頭に書いたとおり、プラネタリーヘルスという言葉が生まれたのは2015年で、SDGsが採択されたのと同じ年です。
偶然だとは思いますが、これからの時代を考えるうえでは避けては通れない考え方であるのは間違いないでしょう。
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コメント
コメント一覧 (2件)
planetary-healthについて、おっしゃるようにネット上で紹介が多数見つからないのでまず参考にさせていただきました。ありがとうございます。
日本語にしつつ類似の言葉と対比されていますが、
”「地球環境システム」に「ヒト」の社会・経済活動が『密接に関わっている』’’というところは、冒頭に訳された通り、『ヒトが』地球環境システムの『破壊を引き起こしている』ということを活かした方が妥当だと感じました。そこが、似ているほかの概念との大きな違いとも思います。
川井さま
コメントありがとうございます。
ご指摘の件について考えてみて、たしかに「ヒトが引き起こしている」という、ある意味で自省を促す表現のほうが適切かと私も感じましたので、そのように修正してみようと思います。
ありがとうございます。